民家の庭を緊急避難路に
住宅の庭などを緊急避難路にするという制度が、東京都足立区で始まるそうです。
この制度のきっかけになったのは、危険な地域ほど建て替えが進まないという問題だったようです。区が打ち出した政策を紹介します。
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東京都足立区は、行き止まり通路に面した住宅の庭などを緊急避難路として提供し整備する家主に対し、最大30万円の助成をする制度を11月1日からスタートする。同区の近藤弥生区長が、9月14日の定例記者会見で無接道家屋対策の一環として表明した。こうした助成制度は、全国的にも極めて珍しい。
足立区では、無接道家屋の建て替えに際して、行き止まり通路から建築基準法上の道路に避難する2つのルートを確保することを義務付けた(資料:足立区)
足立区には、老朽化した木造住宅が密集した地域が多い。それらの地域で問題となっているのが、敷地が建築基準法で定める道路に2m以上接していない「無接道家屋」の扱いだ。特に行き止まり通路に接している住宅は、災害時の緊急車両の運行や住民の避難などで支障が出る危険性が高い。しかし、足立区は無接道家屋の建て替え基準として、既存の前面通路の幅員が2.7m以上あることを条件としていたため、区内の無接道住宅の約8割が対象外となり、手付かずの状態だった。
こうした事態を受け、足立区は2014年4月に既存通路の幅員を1.8m以上に緩和(建物倒壊危険度の高い「特定地域」では1.2m以上まで緩和)。区内の無接道住宅の約8割が建て替え対象となった。こうして規制を緩和する一方で、避難時の安全性を確保するために、建て替えに際しては、行き止まり通路から建築基準法上の道路に抜ける避難ルートを2つ確保することを義務付けた。
危険地域ほど建て替えが進まない矛盾を解消
近藤区長が発表した助成制度は、行き止まり通路の2方向避難を促進するためのインセンティブとして、建築基準法上の道路に面した住宅の家主に協力を求めるものだ。
家主の了解を得たうえで、災害発生時など緊急の場合に避難者が家主の敷地の一部を通って道路に出られるようにする。そのためには、敷地内のブロック塀の除去、避難扉の設置、避難路の舗装などの工事が必要となる。こうした工事費の負担は、これまで無接道家屋の建て替えをする家主が負担することが多かったが、一部を区が助成することで負担を軽減する。
近藤区長は「従来は、無接道住宅の建て替え条件が厳しかったので、危険な地域ほど建て替えが進まないという大きな矛盾を抱えていた。建て替え条件を緩和したり、2方向避難を推進するインセンティブを用意することで、無接道家屋の建て替えを推進したい」と話している。
(日経アーキテクチュア2015/9/24)