14階建てのビル登場 コンクリより強い新木材、普及へ
従来の木材より高い強度を持つCLT(直交集成板)が日本でも実用化されつつある。木造のビルを建てることも可能で、国産材の利用拡大が期待される。
日本は豊かな森林資源を持ちながら、国内で消費される木材の7割を輸入に頼っている。国は現在約30%の木材自給率を、2020年までに50%に引き上げる目標を掲げる。こうした中で、注目されているのが、CLT(直交集成板)という新技術だ。CLTは、木の板を繊維が直角に交わるように互い違いに何層にも重ねて圧着したもの。
重量当たりの引っ張り強度が、コンクリートの5倍と、従来の集成材に比べて非常に強い。鉄筋コンクリート(RC)の代わりに壁や床に使用することができ、木造のビルを建てられる。
鉄やセメントなど製造時に大量の二酸化炭素(CO2)が発生する材料の代替が可能になる。また、多孔質であるCLTは熱を伝えにくく、断熱性はコンクリートのおよそ13倍に達する。表面に石膏ボードなどを貼れば、耐火性も持たせられる。多くの木材を使用するため、国産材の消費拡大の牽引役として期待できる。
■ノルウェーでは14階建て
CLTは、1990年代に欧州で普及し始め、現在はオーストリアを中心に年間50万m3(立方メートル)が生産されている。英国や地震の多いイタリアなどでも、CLTを壁と床に用いた9階建てのビルが建てられている。ノルウェーでは14階建てのマンションが2015年中に完成する見込みだ。
日本では火災や地震などに対する危機意識から、大型の建築物ではRC造や鉄骨造を推奨してきた。しかし欧州などの事例が示すように、技術開発やルールを整備すれば、CLTでも耐震性や耐火性を確保できることが分かり、普及に向けた機運が高まってきた。
■ハウステンボスが“CLTホテル”
2014年1月に農林水産省は、品質と性能が確保されたCLTの普及に向けて日本農林規格(JAS)を施行し、接着性能や表示ルールなどを細かく定めた。そして、同年3月には、日本初のCLT建築物である、社員寮が高知に完成。3階建てで、延べ床面積は264m2(平方メートル)。120m3のCLTを使用した。
その後、数棟の小規模なCLT建築物が国内で建てられてきたが、いよいよ大型の開発プロジェクトが動き出した。ハウステンボスが運営する、日本初の“CLTホテル”だ。
CLTの長所の1つは施工の早さだ。一般的にRC造では、コンクリートが乾くのに時間がかかるため、1階分建てるのに3週間近くかかる。一方、CLTはあらかじめ工場で窓枠などの切断加工を済ませておき、現場ではそれらのパーツを金具で接合して一気に組み上げられる。
■2016年が普及元年
日本でも実用化が進むCLTだが、普及には課題がある。1つは、法律の整備。現在、壁や床などの構造のすべてにCLTを用いた建築物を建てるには、国土交通大臣の認定を取得する必要がある。強度などに関して、超高層ビルを建設するのと同じような実験データを揃える必要があり、認定取得まで1年以上かかるケースもある。
そこで国は、CLTを一般の構造部材と同様に使えるように、強度データの収集や、5階建ての構造物を大型の震動台で揺らす実験などを実施している。こうした実験結果を受けて、2016年度の前半に建築基準法の「基準強度告示」と「一般的な設計法告示」を公表する計画で、これにより比較的簡易な構造計算でCLTの建物が作れるようになると、普及の道が開ける。
普及に向けたもう1つの課題は、価格だ。木材の効率的な供給体制が整っており、CLTの量産も進んでいる欧州では1m3当たり6万円程度。これに対して、日本では15万円ほどする。仮に欧州産のCLTを輸入した場合、輸送費を加えても安い。これでは、国産材の利用拡大は“絵に描いた餅”になりかねない。
■コスト半減でRC造に並ぶ
こうした中、CLT専用工場を新設する企業も出てきている。2016年4月の稼働を目指して今夏に着工する。年間生産能力を、現在の10倍の約4万m3に一気に引き上げる。
CLTにはもともと、コストメリットがある。組み上げが簡単なため、欧州の例では、RC造と比べて全体の工期を3分の1程度に短縮できる。また、重量がRCの4分の1程度と軽いため、建物の躯体や基礎をスリム化できる。そのため、CLTの単価が目標まで下がれば、総工費でRC造と肩を並べることができる。
森林資源を活用し、林業を再生させる成長の芽となるCLTを上手に育てていかなければならない。
(日本経済新聞2015/7/13 )