梅雨明け、熱中症注意

外出自粛で暑さに慣れず 冷房・水分補給賢く

各地で梅雨が明けて暑さが本格化するなか、熱中症患者が急増する危険性が高まっている。今年は長梅雨や新型コロナウイルスの感染防止で外出を控えた結果、暑さに慣れなかったり、体力が低下したりした人も多いとみられる。高齢者は重症化リスクが高く、医師らは冷房利用やこまめな水分補給を呼びかける。

「ステイホームで暑さに慣れないまま夏が来た」。熱中症に詳しい中京大の松本孝朗教授(環境生理学)は危機感を強める。例年は5月ごろから外出時などに汗をかくようになり、気温が上昇するにつれて汗の量も増える。発汗は体外に熱を放出する役割があり、熱中症予防には欠かせない。

コロナ下での熱中症対策
・冷房利用で涼しい環境を保つ
・のどが渇いていなくてもこまめな水分補給をする
・マスク着用時は激しい運動を避ける
・外出時は涼しい服装で防止や日傘を活用
・屋外や人との距離が2メートル以上ある場合はマスクを外す

暑さに適応する「暑熱順化」と呼ばれる体の変化を経て夏本番を迎えるのが一般的だが、今年は新型コロナの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令で春から初夏にかけて外出控えが続いた。松本教授は「運動不足で体力が落ちた高齢者らが35度を超える猛暑日に外出するのは危険だ」と訴える。

総務省消防庁によると、6月~7月26日までの全国の熱中症救急搬送者は1万2294人と前年同期を590人上回った。発生場所は住居が4割を占め、6割は高齢者だった。6月は平年より気温が高い日が多く、屋内で熱中症にかかる人も目立つ。

梅雨も熱中症のリスクを高める。日本気象協会によると、梅雨明け直後は例年、熱中症が集中する時期で、2019年は梅雨明け前後の1週間で救急搬送人数が3~4倍に増えた。

今年は梅雨が例年より長く、7月は全国的に雨や曇りの日が続いた。北海道を除く全国の日照時間は平年の6割で気温も平年より低かったが、8月は厳しい暑さが予想され、担当者は「気温の急上昇で体への負担は大きい」と懸念する。

感染が急拡大する新型コロナに対応した対策も欠かせない。環境省は気温や湿度が高い中でマスクを着用すると、熱中症のリスクが高くなる恐れがあるとして、屋外で人との距離が2メートル以上ある場合などは適宜マスクを外すことを推奨する。

「一人暮らしの高齢者の安否確認を心がけてほしい」と訴えるのは、任意団体「熱中症予防啓発ネットワーク」代表で救命救急医の犬飼公一医師だ。都市部では、独居高齢者が室内で熱中症になって倒れ、数日後に重症化して見つかる例が増えているといい、「今年の夏は自粛生活で地域とのつながりが特に希薄になりがちなので、一段と注意が必要だ」と話す。

同ネットワークは高齢者が節約を理由に冷房利用を控える点に着目。冷房を1日14時間つけた場合の電気代が約300円であるのに対し、熱中症による入院医療代は1泊で約6万円かかると試算し、「冷房の費用は保険代だと考えてほしい」と啓発している。

新型コロナへの対応で救急医療の現場は緊張が続く。犬飼医師は「医療機関の負担を減らすためにも、熱中症の搬送患者が減ることが望ましい。予防を意識して夏を乗り切ってほしい」と話している。

出典:日本経済新聞 夕刊 2020/8/1